2026年の米国株市場で、投資家の間で大きな話題になったテーマがあります。
それが「SaaSの死(Death of SaaS)」です。
生成AIやAIエージェントの急速な進化によって、「これまで企業が利用してきたSaaSはAIに置き換えられるのではないか」という懸念が広がり、Salesforce、Adobe、ServiceNow、HubSpotなどの米国SaaS株が大きく売られました。
一時は「SaaS株はもう終わった」「AIがソフトウェア企業を破壊する」といった極端な見方まで広がりました。
しかし、2026年9月時点で改めて企業の決算を確認すると、少し違った景色が見えてきます。
SalesforceではAIエージェント「Agentforce」のARRが急速に拡大し、ServiceNowでもAI関連の年間契約額が10億ドルを突破。HubSpotも2026年第2四半期に売上高20%増を維持しています。
つまり、少なくとも現時点では「SaaSが死んだ」というより、「SaaSがAIによって進化している」と考えたほうが現実に近いのではないでしょうか。
この記事では、「SaaSの死」で大きく売られた代表的な米国SaaS株として、以下の4銘柄を比較します。
- Salesforce(CRM)
- Adobe(ADBE)
- ServiceNow(NOW)
- HubSpot(HUBS)
それぞれのAIによるリスク、業績、成長性、株価、割安度を確認し、「今は買い時なのか?」を株式投資家の目線から考えていきます。
「SaaSの死」とは?なぜ米国SaaS株は暴落したのか
AIエージェントがSaaSを不要にするという懸念
そもそも、なぜ「SaaSの死」という言葉が生まれたのでしょうか。
これまでのSaaSは、基本的に人間がソフトウェアを操作することを前提としていました。
例えば営業担当者なら、Salesforceにログインして顧客情報を確認し、商談情報を入力し、レポートを作成します。
ところがAIエージェントが普及すると、この構造が変わる可能性があります。
従来は、
人間 → SaaSを操作 → 業務を実行
だったものが、AIエージェント時代には、
人間 → AIエージェント → SaaS・API → 業務を実行
という形になる可能性があります。
さらに、AIによって簡単な業務アプリケーションを誰でも作れるようになれば、「わざわざ月額料金を払ってSaaSを利用する必要があるのか?」という問題も出てきます。
これが、2026年にSaaS株が売られた大きな理由です。
「SaaSの死」は本当に起きているのか
しかし、ここで注意したいのが「SaaSの死」という言葉をそのまま受け取らないことです。
AIによって単純なソフトウェア機能がコモディティ化する可能性はあります。
一方で、大企業が利用するソフトウェアには、単なる機能だけではなく、データ、セキュリティ、権限管理、監査、既存システムとの連携、業務ワークフローなどがあります。
こうした企業システムをAIだけで一気に置き換えるのは簡単ではありません。
実際、2026年9月時点では、AIによる企業向けソフトウェアの破壊は当初の懸念ほど急速には進んでおらず、既存SaaS企業はAIを自社サービスに組み込むことで対応しています。
したがって、今後重要になるのは「SaaSがなくなるかどうか」ではなく、「どのSaaS企業がAI時代にも生き残れるのか」です。
2026年の「SaaSショック」で何が起きた?
2026年初頭、AIによるソフトウェア業界への破壊懸念が一気に強まりました。
特に1月末にはServiceNowの決算をきっかけに米国ソフトウェア株が大きく売られ、AI企業が従来型ソフトウェアを代替するとの懸念が広がりました。
その後もSaaS関連銘柄には売りが続き、市場では「SaaSpocalypse(SaaSの終焉)」とも呼ばれる状況になりました。
ところが、2026年半ば以降になると状況が少し変わります。
AIを導入したSaaS企業の中には、むしろ成長率を維持・改善する企業が出てきたからです。
つまり市場は現在、
「SaaSなら売る」
から、
「AIによって成長できるSaaSを選ぶ」
という段階へ移行しつつあります。
米国SaaS株4銘柄を比較
| 企業 | ティッカー | AI戦略 | 成長性 | 割安感 | 注目度 |
|---|---|---|---|---|---|
| Salesforce | CRM | Agentforce | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ |
| Adobe | ADBE | Firefly・Creative Agent | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ★★★★★ |
| ServiceNow | NOW | AI Agents | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
| HubSpot | HUBS | Agentic Customer Platform | ★★★★★ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ |
ここからは4社を個別に見ていきます。
Salesforce(CRM)は「SaaSの死」を乗り越えた?
Salesforceとは?
Salesforceは、企業向けCRM(顧客関係管理)で世界最大級の企業です。
営業活動、顧客情報、マーケティング、カスタマーサービスなど、企業の顧客接点を幅広く管理しています。
そのため、AIエージェントによって「営業担当者がSaaSを操作する必要がなくなる」という議論が出たとき、Salesforceは当然のように売り対象となりました。
しかしAI事業が急成長している
ここが2026年のSalesforceで最も注目したいところです。
2026年8月に発表された第2四半期決算では、売上高が113億ドルで前年同期比11%増加。
さらにAgentforceとData 360のARRは約39億ドルまで拡大し、前年比210%以上増加しました。
Agentforce単体のARRも15億ドルを超え、前年比240%以上増加しています。
Salesforceはさらに2027年度通期売上高見通しを461億~464億ドルへ引き上げています。
「AIにSaaSを壊される」から「AIがSaaSを使う」へ
Salesforceの面白いところはここです。
AIエージェントによってSalesforceの画面を操作する人間が減ったとしても、AIエージェントがSalesforceのデータやワークフローを利用するなら、Salesforceには新しい価値が生まれます。
つまり、
人間が使うSaaS
から
AIが利用する企業データ・業務基盤
へ進化できる可能性があります。
Salesforceは今が買い時?
私は4社の中でもSalesforceは比較的買いやすい銘柄だと考えています。
理由は、巨大な顧客基盤、企業データ、CRMという強力なポジションを持ちながら、AIによる成長余地も残しているからです。
一方で、売上高成長率そのものはServiceNowやHubSpotより低く、AI事業の急成長が既存事業全体の成長率をどこまで押し上げるかは今後のポイントです。
投資判断:★★★★☆
「高成長AI株」ではなく、AI時代に適応する大型優良SaaS株として見るのが良いでしょう。
Adobe(ADBE)は「SaaSの死」で最も割安になった?
Adobeとは?
AdobeはPhotoshop、Illustrator、Premiere Pro、Acrobatなどを展開するクリエイティブソフトウェアの巨人です。
しかしAdobeほどAIによる破壊を受けやすい企業もありません。
画像生成AIや動画生成AIが進化すれば、「Photoshopを使う必要がなくなるのでは?」という懸念が出るからです。
業績は意外と強い
ところが、Adobeの2026年第2四半期決算を見ると、事業が崩壊しているとは到底言えません。
売上高は66.2億ドルで前年同期比13%増。
さらにAI-first ARRは前年比3倍以上となり、5億ドルを突破しました。
つまりAdobeもAIに破壊されるだけではなく、AIを新しい収益源として取り込み始めています。
Adobe Fireflyが反撃のカギ
Adobeは2026年6月、FireflyやCreative Cloudにクリエイティブエージェントを大幅に拡張しました。
Photoshop、Premiere、Illustrator、InDesignなどをAIが横断して操作し、ユーザーが「こういうものを作りたい」と指示するだけで複数ステップの作業を実行する方向へ進んでいます。
これは非常に重要な変化です。
Adobeは「AIによってPhotoshopが不要になる」のではなく、
「AIを使ってPhotoshopなどの価値をさらに高める」
方向へ舵を切っています。
Adobeは今が買い時?
4社の中で、割安感だけならAdobeが最も魅力的だと私は考えます。
ただし、これは「Adobeは絶対に安い」という意味ではありません。
市場がAdobeに低い評価を与えているのは、AIによってCreative Cloudの価値が長期的に低下する可能性を警戒しているからです。
したがってAdobeは、
「AIによってAdobeは弱くなる」
と考える投資家には危険ですが、
「AdobeはAIを取り込んでさらに強くなる」
と考える投資家には非常に面白い銘柄です。
投資判断:★★★★☆
4社の中では逆張り候補として最も面白いと考えます。
ServiceNow(NOW)はAI時代の本命SaaS?
ServiceNowとは?
ServiceNowは企業のITサービス管理やワークフローを中心に、企業活動そのものをデジタル化するプラットフォームを提供しています。
一見すると「AIに仕事を奪われる側」に見えます。
しかし、私はむしろ逆だと考えています。
AIエージェントが増えるほど「管理」が必要になる
AIエージェントが企業の仕事を代行するようになると、企業側では新たな問題が発生します。
- AIに何をさせるのか
- どのAIに権限を与えるのか
- AIが何を実行したのか
- 複数のAIをどう連携させるのか
- 業務フローをどう管理するのか
この部分はServiceNowの得意分野です。
業績にもAI需要が表れている
ServiceNowの2026年第2四半期のサブスクリプション売上高は38.77億ドルで前年同期比24.5%増。
総売上高も39.87億ドルで前年同期比24%増となりました。さらにServiceNow AIの年間契約額は10億ドルを突破しています。
これは「SaaSの死」という言葉とはかなり違う数字です。
むしろ、
AIが普及することでServiceNowの需要が増えている
と考えることもできます。
ServiceNowは今が買い時?
4社の中でAI時代との相性が最も良い企業として私はServiceNowを評価しています。
ただし、それだけに市場からの期待も大きい銘柄です。
したがって、優良企業だからといって株価がどこでも買い場になるわけではありません。
大きな調整局面が来たときに分割して買う戦略が向いているでしょう。
投資判断:★★★★★
4社の中では長期成長株として最も注目したい銘柄です。
HubSpot(HUBS)は「SaaSの死」で買い場になった?
HubSpotとは?
HubSpotはマーケティング、営業、カスタマーサービスなどを一体化したCRMプラットフォームを提供しています。
特に中小企業・成長企業を中心に利用されていることが特徴です。
売上高は20%成長を維持
HubSpotの2026年第2四半期売上高は9.117億ドルで前年同期比20%増でした。
さらにGAAP営業利益は前年同期の赤字から黒字へ転換し、非GAAP営業利益も44%増加しています。
業績だけを見ると、こちらも「死んだSaaS企業」には見えません。
HubSpotは「Agentic Customer Platform」へ
HubSpot自身もAIエージェントを組み込んだ「Agentic Customer Platform」へと進化しています。
これはSalesforceなどと同じく、AIを競合ではなく自社プラットフォームの中に取り込む戦略です。
それでもHubSpotは慎重に見たい
HubSpotで気になるのは、やはりバリュエーションです。
高い成長率を維持できれば問題ありませんが、AIによって成長率が鈍化した場合、高い期待値が株価の下落要因になる可能性があります。
そのため私は、HubSpotについては「安くなったから買う」というより、成長率が今後も維持できることを確認しながら買いたい銘柄と考えています。
投資判断:★★★☆☆
成長性は非常に魅力的。ただし4社の中ではバリュエーション面から慎重に見たい銘柄です。
4社の「SaaSの死」耐性を比較
| 項目 | Salesforce | Adobe | ServiceNow | HubSpot |
|---|---|---|---|---|
| AIによる破壊リスク | 中 | 中~高 | 低~中 | 中 |
| AIによる成長余地 | 非常に高い | 高い | 非常に高い | 高い |
| 既存顧客基盤 | 非常に強い | 非常に強い | 非常に強い | 強い |
| 成長率 | ○ | ○ | ◎ | ◎ |
| 割安感 | ○ | ◎ | △ | △ |
| 長期投資の魅力 | ◎ | ◎ | ◎ | ○ |
結局「SaaSの死」は終わったのか?
ここまで4社を見てくると、私は「SaaSの死」という表現は少し違うと考えています。
確かに、AIによって一部のSaaSの価値は低下する可能性があります。
特に、単純な機能しか持たず、AIによって簡単に代替できるソフトウェアは厳しくなるでしょう。
しかし、Salesforce、ServiceNow、Adobe、HubSpotを見ると、これらの企業はAIによって破壊されるだけではありません。
むしろAIを自社サービスに組み込み、
「人間が使うSaaS」
から
「人間とAIエージェントが使うプラットフォーム」
へ変化しようとしています。
これが2026年のSaaS業界で起きている本当の変化だと私は考えます。
今後の米国SaaS株で注目すべき3つのポイント
① AIで売上高が増えているか
「AI機能を追加しました」というニュースだけでは不十分です。
重要なのは、AIによって実際に顧客が増え、売上高やARRが増えているかです。
SalesforceのAgentforce ARRやServiceNow AIの契約額が注目されるのは、このためです。
② AIによって利益率がどう変わるか
AIには計算資源などのコストがかかります。
そのため、AIによって売上高が増えても利益が増えなければ意味がありません。
今後はAI売上高だけではなく、AIによる粗利益・営業利益への貢献を見る必要があります。
③ 「AIに置き換えられる側」か「AIが使う側」か
個人的に最も重要だと考えているのがこの視点です。
AIエージェントが普及したとき、その企業が不要になるのか。
それとも、AIエージェントがその企業のデータやプラットフォームを利用するようになるのか。
この違いによって、同じSaaS企業でも将来の企業価値は大きく変わる可能性があります。
米国SaaS株4銘柄、今買うならどれ?
1位:ServiceNow
AIエージェント時代の企業ワークフロー基盤として期待できるServiceNow。
2026年第2四半期も売上高が24%増加し、AI関連の年間契約額も10億ドルを突破しています。
「AIによってSaaSがなくなる」のではなく、「AIがSaaSを利用する」という未来を考えるなら、非常に面白い企業です。
2位:Salesforce
巨大な顧客基盤と膨大な企業データを持つSalesforce。
Agentforce ARRが前年比240%以上増加していることを考えると、AI戦略が単なる宣伝ではなく、実際のビジネスになり始めている点は評価できます。
高成長株というより、大型優良企業×AIという視点で長期保有を考えたい銘柄です。
3位:Adobe
割安感を重視するならAdobeです。
AIによる既存事業への脅威が株価に織り込まれている一方、2026年第2四半期も売上高13%増を確保し、AI-first ARRも大きく伸びています。
FireflyやCreative Agentが成功すれば、現在の低い評価が見直される可能性があります。
4位:HubSpot
成長性ならHubSpotも非常に魅力的です。
2026年第2四半期も売上高20%増を維持しており、業績そのものは好調です。
ただし、今後も高い成長率を維持することが株価に求められるため、4社の中ではやや慎重に買いたい銘柄です。
まとめ|「SaaSの死」ではなく「SaaSの進化」に注目したい
2026年の米国株市場を大きく揺さぶった「SaaSの死」。
しかし、2026年9月時点でSalesforce、Adobe、ServiceNow、HubSpotの業績を確認すると、SaaSというビジネスモデルそのものが崩壊しているとは言いにくい状況です。
むしろ起きているのは、
「人間が操作するSaaS」から「AIエージェントが利用するSaaS」への進化
ではないでしょうか。
SalesforceはAgentforce、ServiceNowはAIエージェント、AdobeはFireflyとCreative Agent、HubSpotはAgentic Customer Platformへと、それぞれAIを自社サービスに組み込んでいます。
そのため、今後のSaaS株投資では「SaaSだから危険」「AIだから成長する」という単純な判断は避けるべきです。
重要なのは、
「その企業はAIによって競争力を失うのか、それともAIによって競争力を高めるのか?」
という視点です。
私なら現時点では、成長性ならServiceNow、安定性とAI成長のバランスならSalesforce、割安感ならAdobe、高成長狙いならHubSpotという順番で見ます。
特に面白いのはAdobeです。
AIによって最も脅威にさらされているように見える一方で、Adobe自身もAIエージェントを積極的に導入し、Fireflyなどを新たな成長エンジンにしようとしています。
もしAdobeがAIによる破壊を乗り越え、逆にAIによってクリエイティブ市場を拡大できれば、現在の市場評価が大きく見直される可能性があります。
一方、ServiceNowやSalesforceはすでにAI時代の勝者候補として評価され始めています。
つまり、これからの米国SaaS株投資で重要なのは「SaaSの死を恐れること」ではなく、「SaaSの進化についていける企業を見極めること」なのです。
2026年のSaaS株暴落は、もしかするとSaaSの終焉ではなく、次世代SaaSへの入れ替わりが始まったサインだったのかもしれません。
今後の決算では、AI機能の追加だけではなく、AIによって売上高・ARR・顧客数・利益率が本当に伸びているのかを確認することが、投資判断の重要なポイントになりそうです。
※本記事は米国株への投資判断を考えるための情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。株式投資には元本割れのリスクがあります。株価や決算内容などは執筆時点で確認できる情報をもとにしています。


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